博多湾の糸島半島側から見た志賀島

 

連載10
奉納絵馬の「馬」を訪ねて  

 2002年が午(ウマ)年というわけで、伊都国内を改めて探訪してみた。平成9年から続けられていた地元の郷土愛好家グループによる絵馬の調査に参加したときのおよそ1000点という膨大なデータの中から、そのほんの一部だが、ご披露しておこう。(このデータは現在、前原市教育委員会に保管されている。その調査時点に重なって福岡県博物館協議会の絵馬調査が行われていて、その集大成とも言える「絵馬特別 展」が平成12年に福岡県立美術館で開催されていた。)

 
 
A 狩野昌運作 「競馬図」元禄14年(1701)
 

 伊都国の東端(現在の行政上では福岡市西区)に玄界灘が見える長閑な段丘にある八雲神社に屋根型の枠に納められた「競馬図クラベウマズ」(A)がある。ここにあるのは模写 図で、実物は福岡市立 博物館に保管されている。元禄14年(1701)、狩野昌運の作。あまり損傷していない。手前の童子に何かを教えているような身振りの男は父親であろうか。馬を自転車に代えると現代になる。その生き生きとした雰囲気が流れるような線描によって強調されているようだ。流動的で爽やかな温かみが感じられる絵馬である。

 地元で長年大工の仕事を続けてこられた氏子であり、絵馬の保存会の会長をしておられる野阪好良さんにいろいろお話を伺った。神社のさまざまな修理だけではなく、防犯対策にずいぶん苦労されたようだ。野坂さんが「さがりぐもがおりますけんが」という?「さがりぐも」とは、屋根の瓦をめくって天井裏に忍び込み、柱かロープをつたって拝殿に入り、賽銭箱を壊して、賽銭を盗る泥棒のこと。本来の神職が高齢のため実質的には野坂さんは神社を守る責任者.。そのような次第で貴重なこの絵馬を末永く保存するために、福岡市立美術館に保管を依頼された。


B 野坂好良さんが竹で作った親子の馬

 大工仕事で背骨を傷められた野坂さんは近所の子どもや病気療養中の方たちのために毎日毎日親子の馬を竹で器用に淡々と創っておられる。(B) 絵馬を守り続けてきた野坂さんの温かい思いが込められている。競馬図を描いた狩野昌運が野坂さんをそうさせたのだろうか。

 八雲神社の絵馬とは違って非常に庶民的な「小絵馬」を求めて宇美八幡宮へ向かう。伊都国の中心から少々西にあって前方後円墳の上にある神社で、岸壁のような石段で知られている。その石段を這うようにして上り詰めた所で躓き、手を擦りむき、右腰を痛め、霰が舞うという有様。目当ての小絵馬は石段の登り口の脇にある小さな祠にあると聞き、ガックリ。 宇美八幡宮の末社という。3畳ほどと狭く、その鴨居の上に折り重なって屋根裏にまで張り詰めてある。その中の3点、白馬(C)、赤馬(D)、黒馬(E)をご紹介しておこう。

 
白馬(C)
 

赤馬(D)

黒馬(E)
 
C, D, E 作者不詳 明治時代(Cは明治7年)宇美八幡宮・末社   
撮影:志渡沢藤夫  

 白馬と赤馬には、雨による人災や農作物の被害から免れたいという願いが込められている。白や赤は太陽、晴天を意味しているのであろうか。それに対して、黒馬には干ばつ続きに困り果 てての雨乞いの願いが込められているようだ。これらの小絵馬には表現は素朴だけれども、庶民の赤裸々な気持ちが生々しく伝わってくる。いずれもサイズは30cm×40cm前後と小さく、明治時代のもので、作者不詳。

 神や仏に祈願や感謝の思いを込めて生き馬、木馬、土馬を社寺に献上するという習慣は、古代にまで遡れるのかもしれない。そうした歴史的な流れの中で絵馬として登場するのは 文献的には平安時代のようである。

 

 

 

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KITANE.Hajime
北根 肇 コピーライター、エッセイスト
1926年4月25日生
〒819-1102 福岡県前原市高田297-9   TEL:092(324)7297 FAX:092(324)1182
e-mail : kitane@jc5.so-net.ne.jp
●日本美学会、民族芸術学会、日本旅行作家協会会員
●京都大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。
●専門分野:美術、デザイン(建築一般・キリスト教の教会建築・家具インテリア・商品一般 )、鉄道、香水、自然環境・都市空間の景観、文化的所産の民族的・歴史的背景。
●得意エリア:日本(とくに古代伊都国)とヨーロッパ。
●著書:『現代芸術七つの提言』共著『世界の香水』『ルイ・ヴィトン独創への共感』の編集ほか海外取材記事多数。
●趣味:旅行、鉄道模型(0ゲージ)、鯉の飼育、現在市販されていないもののコレクション(蓄音機、SPレコード、手動計算機、蛇腹式カメラなど)。
   
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伊都国通信は隔月掲載の予定です。
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