博多湾の糸島半島側から見た志賀島


連載
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日本最大の銅鏡

 

 本の古代遺跡で多くの銅鏡が発掘されていることを知らない人は皆無と言ってよいか もしれない。その夥しい数の銅鏡の中で群を抜いて大きい銅鏡が1965年(昭和40)に発 掘された。その直径が46,5cmという超大型。農業を営む井手信英氏が蜜柑の苗木を 植える作業をしていたときに、朱の残った木片とともに数百の鏡の破片や珠玉 、鉄製の刀 片がぞくぞく出てきた。
 そこで原田大六氏を調査団長とする福岡県教育委員会の本格的な発掘調査が始まった。 場所はまさに伊都国の中心地域、前原市の平原(ひらばる)。この平原遺跡に立って四方を見渡す と、弥生時代の中ごろに繁栄した伊都国を実感させられる。

 調査の結果 、4枚の最大級の類例のない巨大な銅鏡を中心とした多量の副葬品から考え て、被葬者が絶大な権力者の墳墓であると推定された。そして、その権力者が女王であっ たとのこと。卑弥呼ではないらしい。卑弥呼と相前後する弥生時代晩期の2世紀中ごろの 女王の墳墓。そばに殉死者の墳墓もある。当時の陰陽(おんみょう)思想(太陽の光芒は男神)に 従って、日向峠からの朝日の光芒が女王の股間に射し込むように埋葬されていた。



太陽と女王の一体化
日向峠から秋の十月下旬に出た朝日の光芒が、平原弥生古墳の被葬者である女王の股間を射すのを、鳥居で神として祭っている。太陽はこの場合には男性で、女王はその妻と考えられた。


 銅鏡の破片相互を照合して分類整理して接合する作業は難解なパズル・ゲームであった であろう。その大変な努力の結果、4枚の超大型銅鏡、つまり内行花文八葉鏡(ないこうかもんはちよ うきょう)の存在が確認された。その後、国・県の補助を得て前原教育委員会の確認調査が行わ れ、超大型銅鏡が5枚であったこと、これらと合わせて計40枚の大小の銅鏡が確認され た。
     

 ころで、この超大型の銅鏡にまつわる謎がある。それは伊勢神宮の神体と言われてい る八咫鏡(やたのかがみ)との関係にある。この鏡は剣と勾玉 と合わせて三種の神器(じんぎ)として日本 の皇室で代々受け継がれているという。この八咫鏡と大きさが同じで、同じ鋳型で作られ たのではないかと考えられている。被葬者の女王の権力の大きさは想像をはるかに超える ものである。あなたはどのように解釈されるだろうか?八咫鏡の八咫とは鏡の円周を表す寸法のこと。「咫」は当時の女性が手を拡げたときの親指と人指し指との間隔の長さと考 えられており、その八倍の長さが円周の長さになる。直径46.5cm×円周率34= 円周146.01cmとなるから、8で割ると18.25cmとなる。この寸法から古代日 本女性の手の大きさを想像しても無理はないだろう。やや大きい手だたったのだろうか。 それは何故なのか、などと想像するのも、また楽しいではないか。合点!?

 原市の平原遺跡で発見されたこれらの貴重な鏡は当然のことながら、その時に発掘された刀剣、勾玉 などのアクセサリーなどとともに国の重要文化財に指定されている。この 夥しい数の出土遺物を厳重に保存するために、奈良国立文化財研究所で分析や劣化を抑え るための作業が行われ、その処理ができた11号内行花文八葉鏡が8年ぶりに前原市にあ る伊都歴史資料館に帰ってきた。1992年(平成4) にアメリカのスミソニアン博物館で開 催されていた「Ancient Japan」 に展示されて以来のことである。
 現在、伊都歴史資料館に特別に保存展示されているが、特別別館の建設準備が進められ ている。展示される鏡などが国宝文化財に指定されるとなると、どこかの国立博物館に持 っていかれはしまいかという、糸島地元の人たちの不安がないとは言えないようだ。しか し、古代に繁栄した伊都国のこの地で、この環境で超大型の銅鏡に出会うのが最高。

 


※問い合わせ先:前原市立伊都歴史資料館 Tel.092−322−7083          
最寄駅:JR築肥線の周船寺駅または波多江駅 

KITANE.Hajime
北根 肇 コピーライター、エッセイスト
1926年4月25日生
〒819-1102 福岡県前原市高田297-9   TEL:092(324)7297 FAX:092(324)1182
●日本美学会、民族芸術学会、日本旅行作家協会会員
●京都大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。
●専門分野:美術、デザイン(建築一般・キリスト教の教会建築・家具インテリア・商品一般 )、鉄道、香水、自然環境・都市空間の景観、文化的所産の民族的・歴史的背景。
●得意エリア:日本(とくに古代伊都国)とヨーロッパ。
●著書:『現代芸術七つの提言』共著『世界の香水』『ルイ・ヴィトン独創への共感』の編集ほか海外取材記事多数。
●趣味:旅行、鉄道模型(0ゲージ)、鯉の飼育、現在市販されていないもののコレクション(蓄音機、SPレコード、手動計算機、蛇腹式カメラなど)。

 
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